室寺義仁氏の興福寺仏教文化講座（仏教と生命倫理全９回）が終了（平成30年3月10日）した。室寺義仁（むろじよしひと）氏は高野山大学卒で京大大学院を経てドイツハンブルク大学に留学し、現在、滋賀医科大学（哲学）教授である。------ 興福寺の世親菩薩像にぞっこんであり、室寺義仁氏の…… more 生涯の研究課題対象が世親（バスヴァンドゥ）の唯識のようであり、ご自身も楽しみながら講座を担当なさったように見えた。高野山大学出身であれば空海の話が出るかと思ったが、全く、空海及び真言宗の話は無かった。一貫して、原始仏教から後世の弟子たちにより精緻に纏め上げられて来た仏教教学の道筋を研究なさっているので、日本国内や中国朝鮮の13宗派には興味が無さそうであった。釈迦の教えが、直弟子の生存中に纏められたダンマパダ（発句経）などを出発点として、大乗・上座部と発展する中で、西暦300年前後に上座部側から無著・世親が現れて五蘊の理解を唯識にまで昇華させる。これが仏教の真理の最高到達点であり、その理解は現在でも難しい。------ 室寺義仁氏は最後の講義ではアートマンの定義についてとても詳しく解説して下さった。アートマンは結局滅するものなのか、修行を完成させた阿羅漢のみがアートマンを持続させ得るのかと云った、下世話なＱ＆Ａを用いて、何通りにもアートマンの意味合いを説明して下さった。しかしながら最後まで判然としなかったのは、今も室寺義仁氏が研究内容に満足されていないのであるかのように、どちらとも解釈できるような、対機説法的な終わり方であった。この点においては、ご自身の高野山大学の真言宗的教学を意識されているのかなとも思った。------ 日本人は三蔵法師がインドに苦労して行って大部の経典を持ち帰った事までは西遊記で知っているが、その有難いお経に何が書かれているのかについては全く興味が無く知らない人が殆どだろう。室寺義仁氏はその内容を研究なさっているのだから大したものだと思う。---- 世界遺産・古都奈良の興福寺は西遊記で売り出しても可笑しくは無いのだと分かるだけでも室寺義仁氏の講座は意味があったと思った次第である。 close

古都奈良・修学旅行と世界遺産の街（その５６５）